さまざまな文化において、手を触れずに、遠隔の敵ないし獲物を仕留めることのできる弓矢は、ギリシャ神話や日本で「遠矢・遠矢射」といわれる力として特別視され、「エロスの弓矢」や「天之返矢」ように呪術的な意味が与えられた。さらには見えない魔物や魔を祓う、武器や楽器のように使用するものとして、「鳴弦」や現代に伝わる「破魔矢・破魔弓」などがあり、これらは神話・伝説などに登場する、弓矢の呪力の象徴とも言える。また日本においては、原始宗教であるアミニズムが色濃く残っており、弓矢は吉凶を占う道具としての側面も持っている。
中華文明圏において「強」「弱」という漢字に弓の字が使われているのは、それが武力の象徴であり、呪術用に特化して飾り物となった(弱の字は弓に飾りがついた姿を現している)武力を「弱」と捉えたことに注目できる。日本でも、このような弓の呪術性は、鳴弦という言葉に示され、平安時代に、宮中で夜間に襲来する悪霊を避けるために、武士たちによって、弓の弦をはじいて音を響かせる儀礼が行われていた。こうした用法から、世界各地で弓は弦楽器の起源の1つとなったと考えられ、儀式に用いる弓矢ではなく、本来の弓を楽器として用いる場合もあり、代表的な物として、ハープは楽器ではあるが、弓を起源とし、その形態を色濃く残すものでもある。
現在でも玄関や屋根に魔除けやお祓いや結界として、弓矢を飾る地方や人々をみることができるが、古くは『山城国風土記』逸文に流れてきた「丹塗りの矢」で玉依姫が身ごもり賀茂別雷神が生まれたという話があり、賀茂神社の起源説話にもなっている。丹塗りとは赤い色のことであるが呪術的な意味を持っていたことが指摘される。望まれて抜擢されるという意味の「白羽の矢が立つ」とは、元は「神や物の怪の生け贄となる娘の選択の明示として、その娘の家の屋根に矢が立つ(刺さる)」という、日本各地で伝承される話から来ており、本来は良い意味ではなく、心霊現象としての弓矢を現してる。
広く庶民に知られる話としては『平家物語』の鵺退治がある。話の内容は「帝(みかど)が病魔に侵されていたが、源義家が三度、弓の弦をはじいて鳴らすと悪霊は退散し帝は元に戻った。しかし病魔の元凶は死んではおらず帝を脅かし続けた。悪霊の討伐として抜擢された源三位入道頼政(源頼政)は、元凶である鵺(ヌエと読み。頭はサル、胴体はタヌキ、手足はトラ、尾はヘビ。元はトラツグミの不気味な鳴き声のみから想像したもので形は曖昧だったともいう)という妖怪・もののけを弓矢で退治した」と言うものであるが、記述から弓矢には、楽器として悪霊を祓う力と武器として魔物を退治する力があると、信じられていたことが窺える。
天之返矢(返し矢)については「矢」の項目『古事記』を
本来は、古くから神事に纏わる弓矢の言葉でもあるが、さまざまな、古文や句などで使われており、俳句の季語と同じように、間接的な比喩として穢れ・邪気・魔・厄を、祓い清める事を表している言葉でもある。
葦の矢・桃の弓 - 大晦日に朝廷で行われた追儺(ついな)の式で、鬼を祓う為に使われた弓矢の事で、それぞれ葦(アシ)の茎と桃の木で出来ていた。
破魔矢・破魔弓 - はじまりは正月に行われたその年の吉凶占いに使う弓矢。後に、家内安全を祈願する幣串と同じように、家の鬼を祓う魔除けとして上棟式に小屋組に奉納される神祭具の事で、近年では破魔矢・破魔弓ともに神社などの厄除けの縁起物として知られる。
蓬矢(ほうし)・桑弓(そうきゅう) - それぞれ、蓬の矢(よもぎのや)・桑の弓(くわのゆみ)とも言い、男の子が生まれた時に前途の厄を払うため、家の四方に向かって桑の弓で蓬の矢を射た。桑の弓は桑の木で作った弓、蓬の矢は蓬の葉で羽を矧いだ(はいだ)矢。
弓を鳴らす - 鳴弦とも言い、弓の弦を引いて鳴らす事により悪霊や魔や穢れを祓う行為。弓鳴らし・弦打ちともいう。
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弓を引く - 反抗や謀反(むほん)や楯突くことであるが、本来は鳴弦のことで弓の弦を引いて鳴らす事により悪霊や魔や穢れを祓う行為。
弓矢に纏わる言葉
弓矢
弓矢神(ゆみやがみ) - 弓矢を司る神。武の神・軍神
弓矢取り(ゆみやとり) - 弓矢を用いる事。武士。
弓矢取る身(ゆみやとるみ) - 武人である我が身。武士。
弓矢台 - 調度掛のこと。江戸時代に弓矢を飾った台。
弓矢の家(ゆみやのいえ) - 弓馬の家とも言う。弓矢の技術に長けた代々続く家系。武家、武門。
弓矢の長者 - 弓矢の達人、弓術に長けた人。弓矢の家の長、弓術の流派の開祖。武家の棟梁。
弓矢の道(ゆみやのみち) - 弓馬の道とも言う。弓矢の技術、弓術。弓矢の技を身につける過程での道義や信条、弓道。武道、武士道。
弓矢の冥加(ゆみやのみょうが) - 弓矢に宿る神仏の加護。弓矢に携わる者が感じる果報。武士の幸せ。
弓矢八幡(ゆみやはちまん) - 八幡神、八幡大菩薩を指し同義語として南無八幡がある。武士が何かに願いを込めたり誓約する時の言葉。
弓矢槍奉行(ゆみややりぶぎょう) - 江戸幕府の役職で弓矢と槍の製造、監守を司ったところ。
弓折れ矢尽きる - 刀折れ矢尽きると同義語。戦う手段が尽きてどうしようもない状態。打つ手がない事。